titleホームに戻る
北海道新聞に掲載された随筆
「着物」
  昨夏、結婚した二男のお嫁さんは、着付けも自分でするほどの和服好き。
  実は、私のタンスには、もう何年も袖を通していない小紋、紬、ウールなどが眠っていました。亡くなった母が持たせてくれたものです。それほど裕福ではなかった家計をやりくりして作ってくれたに違いない着物です。
  三十代を最後に、タンスのこやし≠ノなってしまいました。昨年、母が亡くなってからは、申し訳ないのと、もったいない気持が交錯して、後ろめたく思っていたところです。
  久しぶりにタンスから出した着物にはしみがついたものもあり、きちんと手入れしなかった自分の無精を後悔していました。
  でも、お嫁さんに相談すると「大丈夫、このまま着ます」と、優しい言葉が返ってきました。
  私と身長はそれほど違わず、若いころの私と同じぐらい細いのです。袖を通すと、想像していたとおりに、寸法はぴったり。
  夫が「そんな古いもの、着られるのか」と心配していましたが、柄も現在に十分通用します。「何十年たっても着られるなんて、着物っていいものだな」と夫は一言。うれしくなって、ぞうり、バッグ、小物も全部引き取ってもらいました。
  ひな祭りに遊びに来たときは、懐かしい着物姿でした。
  長年、眠っていた着物がよみがえり、私の心も軽くなりました。母への恩返しができたかな、と思います。心に春が来ました。
title
戻るtitle